ランチ1220
時代は変わる。
かれこれ数十年前には、
シアタークリエの前身となる芸術座があったり、
時代を感じる古いビルが多くあった。
建て替えが進み、古めかしい雰囲気が上書きされ…
まさに、時代が変わっていく。
演劇の形も、変わっていく。
変わっていく事もあるが、
お芝居を観た後の、あの感動は変わらないでいてほしい。
藤沢朗読劇はじめてのロングラン公演、
「スプーンの盾」12/20昼公演を拝見しました。
演出家さんや、公式運営のSNSで見る写真は、
笑顔が多くて、演者さんや奏者さん、スタッフさんや小さな制作さん、
皆さんが楽しそうな雰囲気があって、見てて本当に楽しいです。
それこそ、大晦日の打ち上げのお写真が、猛烈にファンサです。
空腹が満たされない悲しさ、
満たされた時の何とも言えない、安堵と幸福感。
その人の感情を、国を、料理で動かす、という発想に、
ただただ驚いた本作。
舞台美術が本当に豪華すぎです、
本当に、当時の厨房があって、
厨房を守るかのように配置された、無数のスプーンが、
舞台を彩ります。
彩りといえば、照明が今回すんごかった。
フランス国旗の色を、舞台上でライティングするにしても、
その場面の印象をぐっと引き立てる、
その色と明るさの使い方がまさに、神業すぎる。
神業といえば、もう演奏チームの音が本当に煌めいていて、
パーカッションのスプーンの演奏には驚いたし、
ヴァイオリンとピアノとチェロとフルート、
クラシックな音楽が、格式高い雰囲気を演出してくれます。
格式高いといえば、シアタークリエの内装と、
劇場内の椅子がふかふかで、
ワンランク上の素敵劇場で、毎回素敵な劇場やなぁ、と
観劇後はまさに夢見心地でほわほわした頭をなんとか奮い立たせ、
帰路に着く感じです。
あの、ほわほわした余韻が、虜です(真顔
【カレーム】
彼の壮絶な子供時代の話だけでも、
凄く悲惨で悲しいのに、
物語に出てくる彼は、
なんてまっすぐで、素直で、優しいのだろう。
素直すぎて、人を疑わない、危うさ。
あんな眩しい笑顔で、驚きの料理を持ってくる彼は、
純真無垢なこどもを思い出させる。
持ってくる料理のクオリティ、お客さんをおもてなしするスキルの高さ。
料理の皇帝、ふさわしい。
保存料理を作る事で、戦争がしやすくなる、
という話はなんとも皮肉。
ただ優しいだけでない、彼の信念を貫く姿が魅力的。
マリーとのやりとりは、息子とお母さんのようだし、
ナポレオンとのやりとりは、最初ギクシャクした感じが、
お互いの共通点を見つけ、打ち解けて、
軍人を笑顔にさせていく、その関係性が素敵。
タレーランとは、裏切りや衝突もあったが、
時間が進むにつれて信頼できる仲になる、その過程がいい。
めがねで笑顔、ふっと笑顔が消えて真面目に相手と喧嘩したり、
料理をもって、
「お待たせしましたぁ!」
と掛け声を発する、のぶながさんカレームの、
あの笑顔の輝きよ。
軍服を着た人と対峙し、信念を曲げない強い声と眼差しよ。
いいもん見ました。
【マリー】
盲目の女性で、カレームの右腕。
最初はナポレオンに彼の愛人呼ばわりされたりだったが、
彼女しか見えない視点で、主人公や軍人、外交官との会話を通じ、
より一層登場人物の心情を映し出す、
本作のお母さんポジのキャラクター。
彼女も、空腹故、居酒屋でお金を持たずに食事をしてしまうが、
そこで出会ったシェフ(カレーム)に料理の才能を見出され、
というエピソードが、素敵だ。
そこから、師匠となるカレームの料理の才を、天使と言い、
神格化しつつも、世話を焼くという関係性がほほえましい。
彼を傷つけないでと訴える、彼女と外交官のスープのシーンが、
切ない。
幽閉され、殺されるのをただ待つナポレオンに、
スープを作る彼女との、これまでの過ちを語る場面も、
切ない。
でも、この二つの切なさは、今までの状況を見ていた彼女との会話だからこそ、
より切なく、二人の過去に戻れるならという、後悔の念を感じさせる場面。
カレームとマリーは、恋人というか親子というか、
弟子関係ではあるものの、おっちょこちょいなカレームを、
見守ることぶきさんマリー。聖女のようで好き。
【ナポレオン】
きゃー軍服ですわ!朗読劇で軍服ですわよ!
今までタキシードやお着物や、中国や日本の武将のお衣装での朗読劇を、
観ましたけど、いよいよ!軍服ですよ!(狂
最初にこの公演のタイトル見て、いよいよ軍服か!
って一人キャーってなっていました。
本作の幕の色が、ナポレオンブルーの色となっているのも、御洒落。
本作のナポレオンは、田舎から出てきたところから、
幽閉されるまで描かれている。
やまじさんの野心があって、目線が強くて、キリリとした凛々しさで、
戦争しか考えない男、でも人情もあるナポレオンが、
とても人間味があって素敵。
タレーランとのやりとりが、呼び方を自分で変えるなんて、
もう、それ恋人未満の関係の男女がやるやり取りのそれじゃん!
でも、名前の呼び方でここまで関係性を表す物語の流れが、
破局以上の衝撃が大きい。
カレームの料理に少しずつ魅入って、兵士のための食事をという会話も、
なんとも彼らしいエピソード。
ハーブの名前はわからないが、兵士とその特徴を言う姿が、
二人にそっくりで、うまい対比の見せ方。
戴冠式に出すお城のケーキを、まるで子供のようにはしゃいで、
驚いて楽しんでいる姿が可愛らしいし、
外交官との最後のやりとりは、ただただ迫力があって、
今までと違う、帝王がそこにいて、でも今までの彼であって、
お互いの信念をぶつけ合う場面が、ただただ切ないて寂しくて。
最後のスープの感想のセリフには、心があったまる感じがして、
すべてを収めるあたたかい言葉で、よかった。
最後のあいさつで、テレながら前に出られる、
いけおじ様やまじ様、マジかっこいい!
【タレーラン】
ナポレオンの腹心、天才外交官。
いやぁ、もうこのキャラは本当に、ズルい。
物語きっかけとなる彼の発想「料理外交」というアイデアが、
本当に凄い。
実際に足が不自由であった彼。マリーとの会話で、
お互いの不自由な点を語る場面も、
弱点ではなく、認めたり、他の優れている点を誉めたりする、
そんな彼がほんとうに素敵。
1幕最後、料理外交が軌道に乗り、
クーデターを起こす場面、カレームのデザートを断る彼の声の冷たさ。
照明もあいまって、ドラマティックな場面。
2幕での、ナポレオンが皇帝となり、勝機の見えない戦争をしかける彼を、
止める場面。
彼との激しい言い争いは、国を思う政治家の気持ちに、
今までの二人の関係を切られた喪失感、その流れで
当時の彼との出会い、王冠を見た若きナポレオンへの思いが、
ガンガンガンガン芝居を盛り立てて、
もう感情のジェットコースターのスピードオーバーだよって感じで…
そして最後の「ウィーン会議」で、カレームのデザートが出てきて、
場内の雰囲気がガラッと変わったところに、
外交官の彼の、アカデミックな言葉の中にある、熱い思いと願いが、
ガシィっと人の気持ちをつかんで離さない。
人間のいい所も悪い所も全部織り交ぜられた、
そんなやすもとタレーランでした、あの熱演を観れて本当に良かった。
本作はロングラン公演のため、
役替わりでの公演ですが、
中には4役演じた方もいらしたり、
中には大阪でしか見れない役であったりと、
個人的この組みあわせ見たいなぁと思わせる本作。
勝手な予想ですが、来年もこんな公演があるんじゃないかと、
思っています、願望ですが。